「地理学者」 フェルメール 1669年 シュテーデル美術館
いままで、なんかオリジナルに近い画像が手に入らなかったのであえて大きな画像は避けていたが、まあ、これなら許せるかなと思って掲載。(2011.1.21)
以下は2006年の記事で、多少更新しているのは画像のみ。
白状すると、「フェルメール」が嫌いである。
そんなことを言うと、なんだか「カミング・アウト」のような気持ちになる。それだけ、フェルメールのファンや研究者が多いからだ。
だが、日本人は決まって、多数の支持者を持つ芸術家には、なぜ好きなのかという問いに、「愚問でしょう」という簡単な言葉を投げかける。感覚の生理と心理は何処にあるのか。
「あなたをフェルメールにのめりこませたのはだれか、訊くまでもないわね?」
クラリスが、レクター博士の看護人バーニーに言った台詞である。
ハンニバル・レクターがバーニーに観ることを勧めたフェルメールの絵には様々な寓意がこめられている。それだけが、フェルメールの魅力ではないことを、すでに皆さんの方がご存知であろう。フェルメールブルーを生み出し、寡作であり技法を駆使した絵画。
だから、僕がフェルメールに関する絵のことは、ご存知のことが多いだろうし、参考程度にもならないし、見解も相違するだろうから、鵜呑みにしないでほしい。
読書の秋ということで、手にとったのが、Robert A. diCurcio著の「
VERMEER'S RIDDLE REVEALED」だ。イラストとテキストの2冊組みなのだが、なんとHPあったのでご紹介。
The HOME PAGE of www.VermeersRiddleRevealed.comこの「地理学者」を含めたフェルメールの全作品から、傾いた正方形内の円、さらに三角形を用い、
複雑な幾何学模様に彼の構成を基づかせることができるということを、「VERMEER'S RIDDLE REVEALED」は解説している。プラトン(ギリシアの哲学者、紀元前427年―347)の三角形、A.DÜRER ,Underweysung der Messung (デューラーの「測定法教本」,1525 )など、幾何学的遠近法を取り上げているようだ。
17世紀初めのオランダでは、『透視図法』という著作物があるハンス・フレデンマン・デ・フリースは、目、遠近法、絵画面を一体のものと見るヴィアトールの理論を反復し、フェルメールもこの作図法に則して構成されているという。1628年にオランダに移住している、「我思う、ゆえに我あり」(コギト・エルゴ・スム)のデカルトの、等号・点・線・角度・幾つかの幾何学的な「隠喩的遠近法」の考えがある。
ちなみにフェルメールでは、職業賛美が寓意であるという「地理学者」のみ好きである。たぶん、事物の存在感を抑え、顔つきも「特有さ」が滲んでいないことであろうか。緻密さを強調しない作品だ。だが、地理学者が纏う東洋的(日本的ともいわれている)なシルクローブは、光の陰影や風合いだけではなく、襟元にあたるカラーの上薬による色彩効果である。ローブの境界は、バーミリオンと鉛白。そこに上薬の効果とイエローレイクを加えたことにより、200年後に発明される「カドミウムレッド」および「オレンジ」が、フェルメールの上薬と上塗りにより生み出されているからだ。
カラーの詳細は、KAFKA「
フェルメールのパレット」を。
また、キャビネットに「Meer」、壁の「 I. Ver Meer MDCLXVIII」 の銘刻文字は、元のものではないと聞く。
壁には
Willem Janz の「all the Sea coasts of Europe」、
インド洋、中国および日本に達するために、オランダ人が取るルートを明らかにするために回る、キャビネットの上のホンディウスの地球儀は、「天文学者」の天球儀と対であるらしい。さらに「天文学者」と対作品(ペンダント)であると聞く。
テーブルには、子牛皮紙から成っている海図表や古書も目に付くが、地理学者が手にもつディバイダー(距離を測ったり、線を等分したりするが、コンパスによく似ている dividers だ。)が興味深い。
そして、このスクエアの箱だ。この時代の天文学といえば、天体や物標の高度、水平方向の角度を測るための道具として、「六分儀(Sextant)」なるものがあった。それが入っている箱だとすると、60度弧がはいる作りになるからして、少々ちがう気がする。それなら分解して収める、クロススタッフの箱だろうか。
太陽および星の仰角を測定するのにつかうヤコブの杖ことクロス・スタッフなどの精巧なプレゼンテーションが、同じ年にデルフトで生まれた有名な科学者アントニー・ヴァン・レーウェンフークとの彼の関係を関連付ける。
クロス・スタッフってどこにあるんだ。もしかして、ここか?
さ〜て、僕にとって好きな作品と興味をかきたてる作品とは別物だ。
フェルメールのなかで、もっとも興味を持てるのが「天文学者」である。