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アニー・リーボヴィッツ VOGUE の不思議の国のアリス VS ダリの不思議の国のアリス




2003年12月号 VOGUE の不思議の国のアリス
by アニー・リーボヴィッツ(Annie Leibovitz)


アニー・リーボヴィッツは、いまではほとんど知られているようになった。以前の記事ヴァニティフェアでの写真を紹介したのもこの人。

今回は、仲間うちがポツポツとアリスの作品をアップしているので、僕の別ブログに続いてここでも記事にした。

KAFKA 不思議の国のアリス 第6章

さてアニー・リーボヴィッツのアリスはモデルのナタリア・ヴォディアノヴァ。 ジャンニ・ヴェルサーチの妹ドナテッラ・ヴェルサーチがデザインするアトリエ・ベルサーチ(Atelier Versace)の青いドレス。

この場面は第9章「海ガメもどきの話」(The Mock Turtle's story)になる。

ウミガメモドキとグリフォンとアリス。

グリフォンを演じているのがドナテッラ・ヴェルサーチで、悲しむウミガメモドキに俳優ルパート・エヴェレット(Rupert Everett)が扮している。



挿画 ジョン・テニエル(John Tenniel)
ウミガメモドキ、アリス、グリフォン


アリスの物語はナンセンスでパロディや風刺、言葉遊びなんかが無数に織り込まれた文体。

ウミガメモドキでは特にパロディが強調されるのは第10章のイセエビのカドリールで、すすり泣きまじりで歌う「スープ賛歌」は、これから原文と意訳で紹介する「夜の星(夜の星 美しき星) 」(ジェームズ・M・セイルズ)の替え歌だ。

ジェームズ・M・セイルズのStar、Beautiful Starというくだりを、ルイス・キャロルはevening, beautiful Soupって同じ箇所に使用して強調している。

「Star Of The Evening Beautiful Star」 by James M. Sayle

全文ではなく一部だけね。 (意訳 

Beautiful star in heav’n so bright,
Softly falls thy silb’ry light,
As thou movest from earth afar,
Star of the evening, beautiful star.

天に輝く すてきな星よ 銀の光をやさしく注ぎ
宇宙はるかに旅をする 夕べの星よ すてきな星よ
すてきな星よ すてきな星よ
夕べのほしよ すてきな星よ



(C)"Almost Alice"exhibition
The Mock Turtle and  his Beautiful Soup
by アメリカのデジタル・コラージュ・アーティスト
マギー・テイラー  Maggie Taylor


「Soup Of The Evening」 by Lewis Carroll (意訳 

Beautiful Soup, so rich and green,
Waiting in a hot tureen!
Who for such dainties would not stoop?
Soup of the evening, beautiful Soup!
Soup of the evening, beautiful Soup!
Beau - ootiful Soo - oop!
Beau - ootiful Soo - oop!
Soo - oop of the e - e - evening,
Beautiful, beautiful Soup!

すてきなスープ 濃くのある緑色 熱い鉢が待っている
こいつは どうにも こうにも こたえられない
夕べのスープ すてきなスープ
夕べのスープ すてきなスープ

実はリデル三姉妹が口ずさんでいたという夜の星。
それをドジソン的フェティシズムで言葉で遊び弄り回す。
そしてパロディ化された楽しい詩をわざわざすすり泣きで歌わせているのが第10章。

さて、このウミガメモオキ(にせ海がめ)は、高等教育を受けていたようで、アリスに説明をはじめる。



ジョン・ラスキンの勉学風景 1881年
by W.G.コリングウッド(W.G. Collingwood)


そこに出てくるのが「アナゴ老師」だ。ジョン・ラスキンがモデル。

これが翻訳者によって違う。アナゴの科目が地理(バッ地理)だったり、話術だったり、歴史だったり、古典だったりだ。

ジョン・ラスキン(1819-1900)はルイス・キャロル(1832-1898)で、一回り上の世代。19世紀イギリスの評論家・美術評論家だったから、「海画」(絵画)の先生か歴史、古典でもありそうだが。

Well, there was Mystery,' the Mock Turtle replied, counting off the subjects on his flappers, `・・・・・Mystery, ancient and modern, with Seaography: then Drawling--the Drawling-master was an old conger-eel, that used to come once a week: He taught us Drawling, Stretching, and Fainting in Coils.'

原文(原書)を読んだら納得。Drawling-master, "an old conger eel,"

ドローイングだから海画だ。(笑)、いやドローリング。

当時、美術評論家ジョンラスキン氏は週に1回リデル家に、 スケッチ(速描写、略画) 、ドローイング(素描、線画)、油彩を教えていた。

ここでは、ジョン・ラスキンがリデル三姉妹に学ばせていた「drawing, sketching, patinting」が言葉あそびとして登場しているんだ。



挿画 アーサー・ラッカム (Arthur Rackham)
ウミガメモドキ、アリス、グリフォン


このウミガメモドキ(The Mock Turtle)が話すドローリングの老師は、「ドローイング」にマラプロピズムをあてている。

Drawing(ドローイング)は似た綴りで、美術では「素描や線画」になり、そのほかに「引き出す」というときにも用いられる。Drawling(ドローリング)は副詞として「ゆっくりと,ものうげに」という装飾語になるが、drawlはinやoutで「ものうげに言う」ことから、「いやに母音を引き延ばして言う」、「気取ってあるいはわざとものうげに話す」となるわけだ。

もう一度、さっきの原文の一部に戻ると
Well, there was Mystery,' the Mock Turtle replied, counting off the subjects on his flappers, `・・・・・Mystery, ancient and modern, with Seaography: then Drawling--the Drawling-master was an old conger-eel, that used to come once a week: He taught us Drawling, Stretching, and Fainting in Coils.'

発音は同じなのにスペルが違うという homophone(同音異綴語、同音異義語)で、掛詞のように二つ以上の意味のある言葉を用いた言葉遊びはわかりやすい。

この歌ではマラプロピズム( malapropism 綴りあってる?)を多く使ってると思われる。つまり、似たような発音、似たような綴りのパロディ。

Mystery(ミステリー)-History(ヒストリー)
Seography(スィオグラフィ)-Geography(ジオグラフィ)
Drawling(ドローリング)-Drawing(ドローイング)
Stretching(ストレッチング)-Sketching(スケッチング)
Fainting in Coils(フェインティング・イン・コイルズ)-Painting in Oils(ペインティング・イン・オイルズ)

Gwynedd M. Hudson

挿画 ウイネッド・ハドソン(Gwynedd ・M・Hudson) 1922年


じゃぁ、訳はっていうと
Mystery(ミステリー)-History(ヒストリー)は新潮文庫のアリスの訳 矢川澄子さんの霊奇史(れきし学)が最高。

Seography(スィオグラフィ)-Geography(ジオグラフィ)

「海地理」、「バッ地理」(バッチリ!っていう意訳だ)って訳していた翻訳家もいる。汐地理、汐理学と訳されているものもある。

こういうはどうだ。

「まずは、歴死があった・・・。」とウミガメモドキは指ではなくヒレで数える。
「・・・歴死には古代と現代があったよ。ほかには海戦地理、それから壊画(かいが)・・・その先生は老師アナゴで、週に一度だけ。憂慮描画、矯正図、気絶画を教えてくれた。」by

これが、話術学だったとする。
「まずは、溺死があった・・・。」とウミガメモドキは指でなくヒレで数える。
「・・・溺死には古い方法と新しい方法があったよ。ほかには海底探検、それから話術学・・・その先生は老翁のアナゴでね、週に一度だけだよ。相手をイラッとさせる物憂げな会話術や、まずい時の引き伸ばし方法論に、あとは絶句を教えてくれた。」 by sai

なんてさ、原書だと読む側が選択できるってわけだ。

この章ではアリスがウミガメモドキに授業の時間数を尋ねる。ここが今度は"言葉"に加え"数学"の比喩がはじまる。

「一日何時間だったの?」
「最初の日は10時間、次が9時間、毎日一時間ずつ減っていく。」
「変ね。」
「だから授業(Lesson)っていうのさ。毎日減っていく(Lessen)から。」

すげぇな。最初の日は10時間、だから結局10日で終わりってことだ。

さてここからダリの不思議の国のアリスの挿画をアップ。



Salvador Dali Alice in Wonderland 1969
「The Mock Turtle's Story」
(C)Random House-Maecenas Press刊
ダリの不思議の国のアリスから 海ガメモドキの話


このアリスのなかで身の上話をするのはウミガメモドキだけではない。

第三章ハツカネズミが語る「長い尾話」

"Fury said to
a mouse, That
he met in the
house, 'Let
us both go
to law: I
will prose-
cute you.—
Come, I'll
take no de-
nial: We
must have
the trial;
For really
this morn-
ing I've
nothing
to do.'
Said the
mouse to
the cur,
'Such a
trial, dear
sir, With
no jury
or judge,
would
be wast-
ing our
breath.'
'I'll be
judge,
I'll be
jury,'
said
cun-
ning
old
Fury:
'I'll
try
the
whole
cause,
and
con-
demn
you to
death.'


これは、ハツカネズミの身の上話が5度にわたって曲がる尾にみえる。詩の視覚的形態はジョージ・ハーバードは鳩の両翼の形で「復活祭の翼」、祭壇のかたちをした「犠牲」がある。



Salvador Dali Alice in Wonderland 1969
「A caucus race and a long tale」
(C)Random House・Maecenas Press刊
ダリの不思議の国のアリスから コーカスレースと長い尾


ところが、このハツカネズミの曲線は、原文は韻を踏んだ詩になっているらしく改行すると4つの韻文詩になっているという。その発見が1991年らしい。

"Fury said to a mouse,
That he met in the House,
'Let us both go to law: I will prosecute you. −

Come, I'll take no denial:
We must have the trial;
For really this morning I've nothing to do.'

Said the mouse to the cur.
'Such a trial, dear Sir.
With no jury or judge, would be wasting our breath.'

'I'll be judge. I'll be jury,
said cunning old Fury:
'I'll try the whole cause, and condemn you to death'"

というわけだ。




挿画 アーサー・ラッカム (Arthur Rackham)
第2章「涙の池」第3章「長い尾話」に登場するキャラクター

岸辺に集まったドードー鳥、かささぎ、カニの娘、インコにアヒル、カナリア、鷲の子にネズミら。



 Salvador Dali Alice in Wonderland 1969
「The Pool of Tears」,「The Lobster Quadrille」
(C)Random House・Maecenas Press刊 ダリの不思議の国のアリスから

左が第2章「涙の池」、右が第10章「エビのカドリール」でグリフォンと海ガメモドキがエビのカドリールをアリスに暗誦させ、ウミガメモドキは「ウミガメスープの歌」を歌う。
ところでこねずみの身の上話のシーンだが、「君、聞いてないじゃないか」とハツカネズミがアリスにむかって厳しい声で「何を考えていたんだ」と問う。「ごめんなさい。たしか5回曲がったんでしょう?」とアリス。「5回なもんか」とネズミ。それは韻分詩と尾の形とは違うってことだったのかい?

このけねくねはアリスの言葉で5回、でもって改行すると4回。それで邦訳は4回曲がったかたちにした。

引用訳:高橋康也、沢崎順之助より

"おうちの中で
ばったりと
出会った
小ネズミチュー公に
大イヌ・フューリが
言いました。
「さあさ行こうぜ
法廷に。
おれが
おまえを
起訴してやる—
おいこら
いやとは
言わせねえ。
なにが
 なんでも
裁判だ
なにせけさの
おれさまは
手持ちぶさたで
   ならねんだ」

チュー公、ワン公に
言うことにゃ
「そんな裁判
やったとて
      判事も陪臣も

いなければ
なんのたしにも
なりますまい。」
           そこはワン公

こすからく
「判事も
陪臣も
おれがやる
この裁判の
いっさいは
この
俺様が
引き受けた
見事
死刑の
判決を
おまえに
下して
みせて
やる」



はい、こちら。白の女王が手にしているネズミ。でもって、ティム・バートンはどうなんだ。

はいはい、追加画像。SAIがお嬢さんのアリスの本からゲットしたのは写真家のアベラルド・モレル 。ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」の挿絵として使われているらしい。

テニスンのイラストを利用して背景には本を重ねて写真にパチリ。

この人のアリスはこちらから→「アベラルド・モレル 不思議の国のアリス1998



アベラルド・モレル 海がめもどきの話 1998 不思議の国のアリス
(C)ABELARDO MORELL

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「Alice」 VOGUE 2003by アニー・リーボヴィッツ (Annie Leibovitz)この人はご存知のアニー・リーボヴィッツ。この人ほど「絵画」に近い写真家はいないだろうと思う。17世紀から19世紀に多く描かれた作品を思い浮かべてしまう。記事ネタはfu-のティム・バート
| RE+nessance | 2009/12/25 12:03 AM |
ずいぶん前のVogueで特集だったアニー・リーボヴィッツの写真。デザイナーたちが登場人物を演じた不思議の国のアリス、鏡の国のアリスたち。いろんな人がアップして全部の写真が揃いそう。 「Alice」 VOGUE 2003 (c)www.style.com/Voguebyアニー・リーボヴィッ
| Life Style Concierge | 2009/12/25 12:04 AM |
さてこの記事の前にこれは昨年oriconで書いた記事をこちらに移動。なんてったってさ、メルアドを使い分けていたら前のブログのログインができなくなって。 そのうちに大御所たちがアリスを書き出して。専門的な記事なので先に紹介。 KAFKA 不思議の国のアリス 第6
| ComicStrip Jr | 2010/01/16 9:35 PM |
ネットの僕らの仲間がキャロルやバルテュスやらで、ワイのワイのとやりだした。 僕らの仲間の遊びを訪問者(ゲスト)の方々にも楽しんでいただけるように、なるべく身内記事にならないよう気をつけたい。 それで、なぜにクリス・オールから、僕がはじめようと考え
| ComicStrip Jr | 2010/01/17 2:41 AM |
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