<< PREMIER CRU EN 1973 | main | ダルモア 62年もの >>

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | -

The Geographer by Johannes Vermeer

「地理学者」 フェルメール  1669年 シュテーデル美術館


いままで、なんかオリジナルに近い画像が手に入らなかったのであえて大きな画像は避けていたが、まあ、これなら許せるかなと思って掲載。(2011.1.21)

以下は2006年の記事で、多少更新しているのは画像のみ。


白状すると、「フェルメール」が嫌いである。
そんなことを言うと、なんだか「カミング・アウト」のような気持ちになる。それだけ、フェルメールのファンや研究者が多いからだ。

だが、日本人は決まって、多数の支持者を持つ芸術家には、なぜ好きなのかという問いに、「愚問でしょう」という簡単な言葉を投げかける。感覚の生理と心理は何処にあるのか。

「あなたをフェルメールにのめりこませたのはだれか、訊くまでもないわね?」
クラリスが、レクター博士の看護人バーニーに言った台詞である。

ハンニバル・レクターがバーニーに観ることを勧めたフェルメールの絵には様々な寓意がこめられている。それだけが、フェルメールの魅力ではないことを、すでに皆さんの方がご存知であろう。フェルメールブルーを生み出し、寡作であり技法を駆使した絵画。

Vermeers Riddle Revealedだから、僕がフェルメールに関する絵のことは、ご存知のことが多いだろうし、参考程度にもならないし、見解も相違するだろうから、鵜呑みにしないでほしい。

読書の秋ということで、手にとったのが、Robert A. diCurcio著の「 VERMEER'S RIDDLE REVEALED」だ。イラストとテキストの2冊組みなのだが、なんとHPあったのでご紹介。

The HOME PAGE of  www.VermeersRiddleRevealed.com

この「地理学者」を含めたフェルメールの全作品から、傾いた正方形内の円、さらに三角形を用い、複雑な幾何学模様に彼の構成を基づかせることができるということを、「VERMEER'S RIDDLE REVEALED」は解説している。プラトン(ギリシアの哲学者、紀元前427年―347)の三角形、A.DÜRER ,Underweysung der Messung (デューラーの「測定法教本」,1525 )など、幾何学的遠近法を取り上げているようだ。

17世紀初めのオランダでは、『透視図法』という著作物があるハンス・フレデンマン・デ・フリースは、目、遠近法、絵画面を一体のものと見るヴィアトールの理論を反復し、フェルメールもこの作図法に則して構成されているという。1628年にオランダに移住している、「我思う、ゆえに我あり」(コギト・エルゴ・スム)のデカルトの、等号・点・線・角度・幾つかの幾何学的な「隠喩的遠近法」の考えがある。

The Geographer 地理学者 1669年ちなみにフェルメールでは、職業賛美が寓意であるという「地理学者」のみ好きである。たぶん、事物の存在感を抑え、顔つきも「特有さ」が滲んでいないことであろうか。緻密さを強調しない作品だ。だが、地理学者が纏う東洋的(日本的ともいわれている)なシルクローブは、光の陰影や風合いだけではなく、襟元にあたるカラーの上薬による色彩効果である。ローブの境界は、バーミリオンと鉛白。そこに上薬の効果とイエローレイクを加えたことにより、200年後に発明される「カドミウムレッド」および「オレンジ」が、フェルメールの上薬と上塗りにより生み出されているからだ。

カラーの詳細は、KAFKA「フェルメールのパレット」を。

また、キャビネットに「Meer」、壁の「 I. Ver Meer MDCLXVIII」 の銘刻文字は、元のものではないと聞く。

壁にはWillem Janz の「all the Sea coasts of Europe」、
ディバイダーインド洋、中国および日本に達するために、オランダ人が取るルートを明らかにするために回る、キャビネットの上のホンディウスの地球儀は、「天文学者」の天球儀と対であるらしい。さらに「天文学者」と対作品(ペンダント)であると聞く。

テーブルには、子牛皮紙から成っている海図表や古書も目に付くが、地理学者が手にもつディバイダー(距離を測ったり、線を等分したりするが、コンパスによく似ている dividers だ。)が興味深い。

そして、このスクエアの箱だ。この時代の天文学といえば、天体や物標の高度、水平方向の角度を測るための道具として、「六分儀(Sextant)」なるものがあった。それが入っている箱だとすると、60度弧がはいる作りになるからして、少々ちがう気がする。それなら分解して収める、クロススタッフの箱だろうか。

クロススタッフ(cross-staff)は紀元前400年頃にカルデアの天文学者が使用していたと言われている。1328年 にカタロニアのユダヤ人Levi ben Gerson(1288 - 1344)によって初めての記述が残された。16世紀頃から 船上で太陽高度を測るために使用されていたとう。写真:1325-1340 LEVI BEN GERSON DE PROVENCE POPULARIZA UMA FORMA PRIMITIVA DE SEXTANTE, A CRUZ DE STAFF
太陽および星の仰角を測定するのにつかうヤコブの杖ことクロス・スタッフなどの精巧なプレゼンテーションが、同じ年にデルフトで生まれた有名な科学者アントニー・ヴァン・レーウェンフークとの彼の関係を関連付ける。
クロス・スタッフってどこにあるんだ。もしかして、ここか?

さ〜て、僕にとって好きな作品と興味をかきたてる作品とは別物だ。
フェルメールのなかで、もっとも興味を持てるのが「天文学者」である。

先に記したように、天球儀はホンディウスが製作したもので、この「地理学者」の中に出て来る地球儀と対で売られたものであるという。

ヨドクス・ホンディウスHondius, Jodocus,(ヨドクス・ホンディウス) 1563-1612 の天球儀が描かれた「天文学者」であるが、興味をひく小物が実に多い。天文学者の前に置かれている本は Adrian A Metius ア−ドリエーンメティウスの名著「天文・地理学 集成天球儀と地球儀を利用した天文技術基礎研究及び地理記述」の第3巻、冒頭の2ページ ( Adriaen Metius, 'On the Investigation or Observation of the Stars', Book III, second edition, 1621 )が開いているらしい。

このア−ドリエーンメティウスの名著は、1621年にアムステルダムで発行されたもの。彼の本は時代遅れであるとまだ考えられていない頃だという。さらに17世紀「最初の地理学者」である「モーゼの発見」の絵がある。これが、「手紙を書く婦人と召使い」に共通しているのだ。


「モーゼの発見」の絵には、婚姻外の交渉によって出来た子供を捨てることとの解釈がある。どうやら「手紙を書く女」のタイトルシリーズにありそうだ
新教を採用した17世紀オランダにおいては、夫に忠誠であり、家庭を守ることが女性の絶対的美徳とされていた。しかし、現実がそうした美徳と違っていたことは、ヤン・ステーン(1629-79)等当時の風俗画家の作品をみると良くわかる。画家がそうした絵を描いたのは、家庭に絵が飾られることを鑑みこうしたモラルの乱れを戒め,“美徳”を守ることを奨励するためだったといえる。

さまざまな寓意が込められているが、「手紙を読む女」、「窓辺で手紙を読む女」、「手紙を書く婦人と召使い」に共通しているのが、手紙と窓である。

手紙には婚姻外の関係を持った、あるいは、その可能性がある。女召使の存在が描かれているものから察すれば、公的な郵便制度に頼ってはまずい種類の手紙だということが分かる。開かれた窓や地図は家庭の束縛から離れた“自由な世界へのあこがれ”との解釈が可能だ。

妊娠の可能性が認められる「手紙を読む女」は、不倫の子を身ごもっているのかもしれない。「手紙を書く婦人と召使い」は、「モーゼの発見」の絵があるからして、夫や子を捨てて、愛人のもとへいくつもりなのか。「窓辺で手紙を読む女」は、もともと小天使クピドが描かれていたらしい。カーテンで隠されたということは、隠しておかなければならない相手なのだろうか。

さて、「手紙を書く婦人と召使い」(1670年頃)と「天文学者」(1668年)には、共通の壁の絵がある。この2枚、なにか意味があるのだろうか。

2011年追記→「XAIフェルメールはお好き?」で「天文学者」を掲載。

で、「天文学者」の最後の関心。
I Merr M DCLXVIII と記されているって知っているとおもうけどさ。天球儀に手をかけた天文学者のむこうがわに書かれている。「I VERMEER MDCLXVIII」ということで、サインなんだけどさ。MDCLXVIIIって1668の製作年月日のことだろ。

その上のさ、立体的なボードに描かれている大小3つの円があるんだけど、これなに。なんのチャートなの?僕にはレクター博士がいないからさ。(笑)

誰か教えてよ、フェルメールを。

さて、フェルメールを賛美する言葉がある。
「言葉がまったく無力になる奇跡に達している」 by ダリ

ダリ フェルメールの<レースを編む女>に関する偏執狂的=批判的習作 1955年僕はダリも好ましくない。Saiも不愉快だと言っているが、そんな好ましくないと思う芸術家の作品に、やはり「これは」と思うものがあるものである。ダリの好みについては、また別の機会に。

© 1998-2006 by Wishihadthat.com

そのダリが「Paranoiac-Critical Study of Vermeer’s ‘Lacemaker’(フェルメールの「レースを編む女」に関する偏執狂的=批判的習作")」を描いたのが、皆さんご存知の左側。画像の右側。これも、フェルメールの「レースを編む女」である。手元のカタログが紛失のため、ダリのペンダントだったと記憶しているが・・・。

ウォーターメロンなどのフルーツが、レースを編む少女の手元から踊りでるように、その少女は、楽しげに編んでいる様子にもみえるが、1845年の「Leesboek voor de Scholen van het Nederlandsche Leger, ’S Gravenhage, Bij Gebroeders Belinfante」は、レースブックというテキストがあるように、必要な技能だったようだ。女性のたしなみとして、そして中世経済の象徴として。

ヨーロッパの修道女たちの日々の労働だったレース編。貧困に喘いでいた時、修道会が産業としてレース編みの普及に努めたという。

The Lacemaker

レースを編む女 1669年 ルーヴル美術館

(オランダでは)当時の平均的労働者の年収額がおよそ250ギルダーである。賃金購買力は1570年代以降上昇し始め、そのレベルは18世紀も末になるまで周辺諸国のそれを上回っていた。人口成長と経済成長が共存していたからである。それは独立を達成した17世紀に、オランダの黄金時代となったからだ。オランダは共和制による海洋国家として発展し、1602年に設立された東インド会社による植民地経営を確立し、1605年にオランダはモルッカ諸島の香料貿易をポルトガルから奪取して、港町・アムステルダムはバルト海、地中海に更に東インド貿易をつなぐ中継貿易港となり、アジアでは鎖国している日本の唯一の貿易国となるほどに発展した。ヨーロッパでオランダが覇権を握った期間は、1575-1672年の約百年である。その後イギリスに移るのだった。

17世紀にはイギリスやフランスを凌ぐ繁栄を誇っている反面、工業化は19世紀後半まで起こらないというオランダ特有の歴史がある。イギリスでは紡績工場の糸取り、レース編み等々で、産業革命は、1日に14時間の労働を強制し、工場の床で寝る子どもたちを生み出す過酷な労働は、ディケンズなどの小説にも登場する。

左がオリジナルで、右がダリのThe Lacemaker (copy of the painting by Vermeer Van Delft), 1955年である。「レースを編む女」には、一心不乱に取り組んでいるという謳い文句がある。どこの国も、女性の美徳やたしなみを象徴するのは家事労働。  © Olga's Gallery

この場面は、中流市民の生活場面であろうか、それとも衰退していくオランダ経済により、明日のパン代となるレースを編み出しているのか。オランダでは絵画がステイタスシンボルであり、貧しい家も数枚は所有していたという。だが、経済の衰退は、この3年後に決定的となる。

1660年代後半から、ほとんどカンバスにむかうことも多くなかった。フェルメールはギャラリスト(Gallerist)であり、美術品鑑定家としても高名でもあった。だが、父親が小ホテル「フライイングフォックス」を経営し、なおメヘレンを買い取る。決して裕福ではなかったらしい状況で育ち、多額の負債の残ったホテルメヘレンを継ぎ所有していたフェルメール。第三次蘭英戦争がもたらした急激な経済不況のせいで、フェルメールはゴーダに出征し、人々は日常生活の必需品以外はまったく買うことができなくなってしまったように、彼の生活も衰退していった。

参考サイト Jonathan JansonEssential Vermeer
| フェルメール | 11:31 | trackbacks(5)
| - | 11:31 | -
TRACKBACK
この記事のトラックバックURL
ウェルドというハーブ・スパイスの植物。 染色に使われます。ご覧くださいな。フェ
| KAFKA | 2006/09/24 11:34 AM |
テーブルにはミメーシス(模倣)を象徴するデスマスク、ハプスブルク王朝を象徴する双頭の鷲のシャンデリア、世界を意味するクラース・ヤンスーゾン・フィッセル作 「ネーデルランド17州地図」、勝利を意味する月桂冠、知識・智恵・歴史を表す史書を持ち、名声を告げ
| RE+nessance | 2006/09/24 11:35 AM |
フェルメールを好まない友人達が、フェルメールの記事を書き出した。僕もフェルメールの特有さが苦手であるが、興味は尽きることがない。 自称フェルメール愛好者の方々の記事も目にするのだが、感想文とトピックしやすい部分の解説の記事であるため、知りたいこと..
| Die Verwandlung | 2006/09/24 6:35 PM |
フェルメールのクローゼットには、トルコ風の衣装など、民族を強調する服飾が用意さ
| sweet-sweet-sweet | 2006/09/25 12:42 AM |
こちらフェルメールのテーブルです。仲間たちが、ちらほらフェルメールの記事を書き出したので、私も参加させていただきますね。(笑) このテーブルは、17世紀のもので、アムステルダムの国立博物館 Rijiksmuseum にあるはずです。 お仲間のフェルメールは、
| Blog She’s Style | 2006/09/25 6:27 AM |
PROFILE

無料ブログ作成サービス JUGEM
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
Previous Posts
LIFE STRIPE
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
SELECTED ENTRIES
RECENT TRACKBACK
覚書
HR style="COLOR: #cccccc"
MOBILE
qrcode
OTHERS
SPONSORED LINKS